悪戯な悪魔たち




不二子がやって来た時、アジトのリビングにいるのは次元と五右ェ門だけだった。
「あら?ルパンは?」
「研究だとか言って、地下に籠ってるぜ。誰も来るなとよ」
顔も上げないまま面倒臭そうに次元が答える。
「そう」
不二子は肩を竦めてから勝手にコーヒーを淹れ、空いているソファに腰掛けた。
「何しに来たんだよ」
「別に。暇だったから」
「けっ」
次元は悪態をつき、煙草を揉み消した。
「何よ。文句でもあるの?」
「どうせまたルパンを利用しようと企んでんだろ」
「あら、妬いてるの?」
「誰が妬くか」
大人気ないいがみ合いはいつものこと。
やがて我関せずと静かに瞑想していた五右ェ門にも火の粉が飛ぶ。
「ちょっと五右ェ門、貴方の彼氏、躾がなってないわよ!」
「拙者の知ったことではない」
わりとあっさり挑発に乗った五右ェ門が言い放ったとき、リビングのドアが開いた。
「ふ〜じこちゃん!来てたんだぁ!」
「ルパぁン。この二人ったら、私を邪険にするのよう」
両手を広げたルパンに甘えた声で擦り寄る不二子。
やれやれ。
次元と五右ェ門は溜息をついて、ソファに沈んだ。
どうせ不二子に口で勝てるはずがないのだ。
「そ〜いうのは良くないんでないの?お二人さん」
二人を睨みつけるルパン。
なぜかその口元には、怪しい笑みが浮かんでいる。
次元が口を開こうとした時、ルパンの手から彼ら目がけて何かが飛んだ。
完全に油断していた二人に「それ」が見事に命中する。
「なんだこりゃ!」
飛んで来た小さなものは二人の体に当たると液体に変化し、あっという間に衣服に染み込み、肌に触れる。
数秒後には次元も五右ェ門も身体に力が入らなくなり、ぐらりと上体を傾けた。
「新開発の毛穴から浸透する即効性液体催眠剤。出来立てのホヤホヤだぜ」
薄れゆく意識の中で、ルパンの説明が聞こえる。
「てめえ………」
「貴様………」
同時にルパンへの恨み事を吐き、瞼を閉じる二人。
彼らが最後に見たものは、得意げに笑うモンキーフェイスだった。
「ヌフフ、完璧だな。どう?不二子ちゃん」
「すごいわ。ガスと違ってこれならマスクを持ってなくても心配ないわね」
「でしょ〜。君に使ってあーんなことやこーんなことをしちゃうことだって……」
「使わなくたってさせてあげるわ」
ウインクを飛ばす不二子に、あっさりと乗せられるルパン。
いつもそれで痛い目を見ていることなどすっかり忘れている。
「そ〜んじゃ早速……」
「その前に、この二人に私を苛めたお仕置きをしない?」
肩に回された手を押しやって、不二子が小悪魔の笑みを浮かべる。
別に誰も苛めてなどいないのだが、こんな面白い提案にルパンが乗らない訳がない。
二人は顔を見合わせて、にやりと笑った。




「ねえルパン、髭はどうするの?」
「いっくらなんでも剃っちまったら殺されっだろ。それに髭生やしてっから面白いんじゃんか」
「それもそうね」
不二子はくすりと笑い、作業の続きを始めた。
彼女の目の前にあるのは、大量のマスカラでやたら濃くなった睫毛ときつすぎるパープルのアイシャドウを施された、次元大介の顔。
その頬に、今度はたっぷりと濃いピンクのチークが塗られていく。
「不二子ー、そっちはどうだ?」
五右ェ門に何やら施しているルパンが、顔を上げないまま問いかける。
かなり気持ち悪くなってるわよ。今から口紅を塗るところ」
「ぎゃっはっは、そりゃいいや。こっちももうちょいだぜ」
「ふふ、楽しみ」
ルパンは、鼻を赤く塗られてチョビヒゲを描かれている五右ェ門の髪をまとめ、バーコードハゲのかつらを被せているところだ。
繋ぎ目を丁寧に慣らし終えた時、不二子が笑いながら叫んだ。
「いや〜ん、最悪ー!!あっはっはっは!」
ルパンが振り返ってみると、どこからどう見てもオカマとしか思えない早撃ち0.3秒のプロフェッショナルなガンマンの寝顔がある。
「ぎゃーっはっはっはっは!気色悪りい!!すっげぇ気色悪りいよ!ぎゃっはっはっは!」
カーペットの上にひっくり返って、両手どころか両足まで打ち鳴らして大喜びのルパン。
その脇にいる五右ェ門の顔を覗き込んだ不二子も、美しい顔が台無しになるほどに大口を開けて笑い出した。
「いやー!!もうやめてぇ!あっはははは!可笑しくて………お腹がよじれちゃう……!」
二人はひとしきり笑った後、涙を拭いながら顔を見合わせた。
「……不二子、何考えてる?」
「貴方と同じこと」
またもや悪魔の笑みを浮かべるルパンと不二子。
ルパンはヌフフと笑ってから、五右ェ門の座っているソファを力いっぱい押して、次元のソファの隣につけた。
それだけで早くも不二子は吹き出している。
「不二子、笑ってねぇでカメラ用意してくれよ。ヌフフフフ」
「携帯でいいかしら?200万画素あるし」
「もっちろん!」
返事をしながら五右ェ門を座り直させ、その肩に次元の頭を凭せ掛けるルパン。
それからちょっと考えて、次元のシャツのボタンを外してそこに五右ェ門の手を忍び込ませる。
出来上がった「ヒゲのオカマを抱き寄せるエロオヤジの図」を見て、二人はまた引っくり返って爆笑した。
「ぶひゃーっはっはっはっは!不二子お……!ひっひっひ、早く、写真……写真撮ってくれ!うひゃひゃひゃひゃ!」
「あっはっはっは!ダメよ、笑っちゃって……手が……震えちゃうのよう!」
それでもなんとか狙いを定めて撮影ボタンを押す。
ピロポロリン♪と陽気な音を立てて携帯に納められた写真を見て、また爆笑する二人。
不二子は笑いすぎて声も出なくなったようで、喉をヒューヒュー鳴らしている。
「あー苦しい。不二子、何枚か写真撮っといてくれよ。俺、すんげえいいモン持ってくるから」
そう言い残してリビングを去るルパンを見送ってから、不二子はあらゆる角度から震える手で写真を撮り始めた。

ほどなくルパンが戻ってきた。
その手にあるものは……
「なあに、それ」
「ラクダのシャツとステテコと腹巻き。んで、こっちがチャイナドレス」
「きゃっはっはっは!」
また不二子が大笑いする。
「こいつ着せてまた写真撮ろうぜ」
「いいけど……大丈夫かしら?起きない?」
「薬の効き目は一時間だ。まだ30分だから大丈夫さ。うしゃしゃしゃしゃ」
そう言って次元のジャケットを脱がせ、ベルトのバックルに手を掛けるルパン。
不二子は一応後ろを向いて、着替えが終わるのを待っている。
「なかなか難しいな。ケツ上げてくれりゃ楽に脱がせられるんだけっども……」
ルパンがそう呟いた時、次元の腰が少し浮いた。
「お、サンキュ」
礼を言ってスラックスを脱がそうとして、はっと気づいた。
同時に額に押し付けられる、冷たい鉄の感触。
「てめえ…………何してやがる」
「あらん次元ちゃん、爽やかなお目覚めで」
ルパンの顔が引きつった。
どうやら薬の出来は完全ではなかったらしい。
異変を察知した不二子は、目にも留まらぬ早さで逃げ出した。
「ずりっ、不二子……!」
「何してやがるって訊いてん………」
そこまで言って、次元は自分の胸元に突っ込まれた手の存在に気づいた。
恐る恐る隣に目を遣ると……バーコードハゲにチョビヒゲの五右ェ門が、眉間に皺を寄せてうっすらと目を開いたところだった。
「ぐはっ!!」
盛大に仰け反る次元を見て、目覚めたばかりの五右ェ門がこれまた盛大に吹き出す。
「ぶはっ!な、なんだお主、その顔は!」
「お前こそなんだよ、その頭!」
互いに唖然としながら、それでも込み上げる笑いを堪え切れない。
その隙にこそこそと逃げ出したのは、言うまでもなく天下の大泥棒様だった。
ガンマンとサムライが我が身に降りかかった不幸を知るのは、それから数分後。
その日は夜遅くまで、必要以上に丁寧に愛器を手入れする二人の姿があった。



全くの余談だが、翌日携帯に届いた写メールを見た銭形は、口どころか鼻からまでも盛大にラーメンを吹き出したのだった。





さんく様から、18000のキリ番を踏んだのでいただいてしまいました♪
アップ方法わかんなくて、遅くなってしまいすみません。(汗)
お題は「家でできる遊び」でした。どうですか、この傑作は!!!
心底笑いました。なんて面白いんでしょう!!!(笑)
がんばってキリ番狙ったかいがありましたよぉ〜〜♪
いやぁ、ホントにこんな素晴らしい小説が書けるって羨ましいですねぇ。
さんく様、本当にありがとうございました!!!



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