【rainy night】





サァァァ―――――――・・・・・・

夜。

外は生憎の雨だった。



――――折角の十五夜だったというのに。



五右ェ門は静かに溜息をついた。

今日、この日は『中秋の名月』と呼ばれ、最も美しい月が見られる日だ。
その時を一緒に過ごしたくて、次元を晩酌に誘ったのだが・・・。

「降られちまったな」

背後から耳に心地よいバリトン。
だが、少し落胆したように聞こえるそれに申し訳なくて。
「済まぬ、次元。折角付き合ってくれたと言うのに・・・」
「雨が降ったのはお前の所為じゃねぇだろ?構わねぇよ、飲もうぜ」
「しかし・・・」
「せっかくつまみ作ってくれたろ?それに・・・」
そっと耳元で囁く。
「お前と飲むのに理由なんか必要ねぇしな」
その甘い声に思わず赤面する五右ェ門。
軽く次元の身体を押し返す。
「氷を取って来る故、暫し待て・・・」
いつまでも慣れない反応が可笑しくて、次元は声を殺して笑った。




「そんじゃ、乾杯」
「うむ」
向かい合わせにソファに座り、チン・・・とグラスの音。
一口だけ煽ると、五右ェ門はまた窓の外に視線を向ける。
「五右ェ門、どうした?」
「え・・・?」
「おかしいぞお前。何ボーっとしてんだ?」
「・・それは・・・・」
僅かな沈黙の後、ぽつりと五右ェ門が口を開く。
「次元、お主・・・雨は好きか?」
「雨?」
「そうだ」
そう尋ねながらも、五右ェ門の瞳は物思いに耽っているようで。
「お前はどうなんだ?」
逆に訊いてみる事にした。
「拙者は・・・」
「ん?」
「拙者は、好かぬ」

昔、殺しが全てだった毎日。
手を血で紅く染めるばかりの日々。
荒んだ心を癒してくれるのは、夜空の月と星空だけだった。
だが雨はその二つともを覆い隠してしまう。
抗うこともできず、どうすることも出来ない弱い自分を自覚してしまう。

「雨の夜は声を殺して・・・泣いた」
ギュッ・・・と袴を握り締める。
「五右ェ門・・・」
立ち上がり、五右ェ門の隣に座る。
「次元」
「俺も昔はそうだった。だがな、今は違うぜ」



「ルパンと組んでからだな。雨がそれほど嫌じゃなくなったのは」

「それでも好きって訳じゃあなかった。なんとなく気が滅入るし、外に行く気もなくなるからな」

「悪くねぇって思い始めたのは、お前が来てからだな」


「え・・・」
予想もしなかった言葉にどきりと胸が高鳴る。
「雨の日ってのは大体、仕事も何もねぇ日が多かった。退屈で仕様がなかった。けどよ」
五右ェ門の肩を抱き寄せ、艶やかな黒髪に顔を埋めた。
「お前がいる」
「あ・・・」
「それだけで最高だ」
「次元・・・」


胸が熱くなるのを感じた。
どうしてこの男は、こうも容易く心を溶かすのだろう。
欲してやまない言葉をくれるのだろう。


込み上げてくるものに耐え切れず、涙が零れそうになった瞬間。
突然顎を掬い上げられ、驚いて目を開く。
「ん・・・・・」
気が付けば、口付けられていた。
唇を割り、舌が口内に入ってくる。
そこから熱いウイスキーが流し込まれる。
「ふっ・・・・・」
こくり、と五右ェ門の喉が鳴った。
「はぁっ・・・次元!い、いきなり何を・・・」
「ああ、悪ィ。お前、いい顔してたからよ」
「・・・?」
「なんつーか、安らいでるって感じのな。その顔が綺麗だったもんでつい、な・・・」
ふわりと五右ェ門の頬を撫でる。
途端に頬を赤く染め、俯く五右ェ門。
「恥ずかしい奴め・・・」
口では皮肉を言いながらも、僅かに微笑み身体を男に凭せ掛ける。


伝わる温もり。

互いの仕草が言っている。

愛しい、と。


「次元・・・」
「何だ?」
「もう一度、口付けを・・・」
「仰せのままに・・・」
優しく啄むようなキス。
一段と甘い空気が二人を包む。
「もう一度・・・」
「どうした?珍しいな」
「雨の所為だろう、ふふ・・・」
繰り返される、キス。
羽のように穏やかだったそれにも、段々と劣情が増し激しくなる。
「ん・・・次元・・・」
「五右ェ門・・・」
唇から伝わる愛情。
互いにそれを受け、それを返す。

溢れる想いは尽きる事なく――――。







退屈もスリルも無い日。


確かな温もりと幸福が傍に在る日。


時計も日付も気に止めない、そんな一日。






"あとがき"
久々のジゲゴエ小説、書いててとても楽しかったです。
最近、急に晩酌ネタが思いついて、テレスペの後だったのでそれを機に書いてみました。
今年の新暦で十五夜はいつなのか分かりませんので、あまり離れてないと良いな、と思ってます(笑)



あっ、ルパン忘れてた・・・。





いつも仲良くしていただいているフィオ様からいただきました。
この間久々にチャットで話して、「久々に小説を書こうかな」
とおっしゃっていたので、もらってしまいました♪
字書きさんとしてすごいなぁ〜と思います。
ジゲゴエラブラブ良いですよね♪
フィオ様、本当にありがとうございました!!



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